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事業資金の借入を返済できず、自宅を競売にかけられ自宅を失った人に体験談を書いてもらいました。
自宅を競売にかけられそうになっても、なんとか回避できる方法もあります。
持ち家の競売を避けたい方、競売の流れなどを知りたい方は参考にしてみてください。
持ち家を競売で失った人が語る自宅競売体験談.自宅が競売にかけられるまで、競売の流れ、競売対策・競売を回避する方法
自宅を競売にかけられて失う、という多くの人は一生経験しないであろうことを、図らずも経験することになりましたので、その経緯をまとめたいと思います。
2018年ごろ、私は40台半ば。自営業を営んでいましたが、事業上のトラブルで数億の負債を抱えることとなりました。
複数の債権者がいましたが、なんとか負債の減額交渉や和解をすることで事業の立て直しと再起を図っていました。
住まいとして、20年ほど前に購入した自宅マンションがあり、こちらは事業が順調な時にローンも完済していたため、純粋な唯一の財産と呼べるものでした。
そのマンションで妻と子供達と、どうにかこうにか日々の生活を細々と続けていました。
自宅競売になった経緯
そうした立て直しの最中、2020年に私が経営していた法人の債権者との民事裁判がありました。
事業はほぼ一人で行なっていたため、実質的にはいわゆる「一人社長」であり、あまり信用力もないため、債権者側の要望で私個人が連帯保証人となっている債務。
金額はおよそ1500万円でした。
この裁判が和解に至らなかったため、2022年3月に全額を支払う旨の判決が出されます。
被告である私(および私の法人)が全面敗訴です。
私の経営する法人には当時現金を含む財産が全く残っていなかったので、債権者が私の保有するほぼ唯一の財産である自宅マンションに、競売の申し立てをするであろうことは予測できました。
判決から一ヶ月弱も経たない3月下旬、裁判所から「強制競売開始決定」通知が届きました。
競売にかけられるまで
4月に入るとさらに裁判所から「不動産の現況調査について」という照会の通知が届きます。
競売に先立って、自宅の使用状況を確認し、実質的な価値を算定するための調査をするため、裁判所の執行官が自宅に訪問する日程を調整するものでした。
この調査を回避することはできませんので、5月に私立ち会いの元、裁判所の執行官を自宅に入れました。執行官と不動産業者が同席し、全室の写真撮影と劣化状態、使用状況のチェック等が行われました。所要時間は一時間ほどだったと記憶しています。
執行官によると、競売が開始されると住所とともに当日撮影した写真がインターネット上に掲載されるとのこと。
プライバシーに関する部分はモザイクなどで隠すとは言われましたが、いよいよ待ったなしという感じで、焦燥感と不安感はピークに達していました。
調査の結果による物件価値の算定が完了したら、入札期間が決まり、情報が公開されることとなります。調査後、公開までは2〜3ヶ月とのことでした。
これらの手続きは裁判所側が自動的に進めていくため、物件調査後の段階に至ってしまったら、こちらの要望等が聞き入れられることはありません。
ただし、入札期間までは債権者の同意を得て競売を取り下げてもらうことができるため、私は返済の原資の金策に走り回り、また債権者に対しても支払い期日の延長などのお願いをしました。
しかし、債権者が応じるわけもなく、徐々に打てる手立ては無くなっていきました。
この時点においても家族(妻)には、極力不安を与えないために、まだ解決できる可能性が高い、安心していてくれ、という希望的観測しか伝えておりませんでした。
自宅を奪われることになると私のみならず、家族にも大きなダメージがあり、生活の基盤が揺らいでしまうため、何としても回避せねばならず、苦肉の策で裁判の判決を不服とする控訴もしましたが、多少の時間稼ぎ程度の意味しかなく、あえなく棄却されることとなりました。
刻一刻と、競売へのタイムリミットは迫っていました。
時間だけが過ぎてゆき、7月末、ついに裁判者から入札期間の決定通知が届きます。
通知書には先日行われた調査の結果算定された、自宅の「売却基準価額」というものが記載されており、この金額が売却額の基準となります。
私の自宅の売却基準価額は、購入時のおよそ半額、といったところで、自身で調べていた同じ地域の物件の相場などから考えると、随分安いな・・・と感じたことを覚えています。
後から知ったことですが、この価額は市場価格の4〜5割程度が一般的だそうで、入札者が実際の物件を確認できないため、安めの設定となるそうです。
入札期間は8月末から9月初旬の5日間。この間に落札希望者は希望金額を入札し、開札期日に一番高い金額で入札した者が、物件を落札する権利を得ます。
入札には基準価額の8割以上の価格を提示する必要あるとのことでした。
この時点で弁護士から「落札者はその物件を転売することで利益を得ようとするのが通常なので、転売の利益を得られる可能性が低ければ、入札者自体がゼロで競売が不成立の可能性もある」と言われており、その可能性に一縷の望みを託していました。
入札期間が始まる2週間ほど前から、競売情報が裁判所で一般公開されるため、不動産業者などが物件の詳細を自由に閲覧することができるようになります。
また業者向けのインターネットサイトにも同様の情報が掲載され、先日の調査で撮影された写真等も全て掲載されます。私も当時、恐る恐るサイトを閲覧してみましたが、執行官の説明通りプライバシーに関する部分がモザイク処理されているものの、自宅の中がネット上に公開されるという普通ではあり得ない状況に大きなショックを受けました。
この頃から、公開された情報を見た不動産業者などから任意売却や債務整理のダイレクトメールが多数届き始めます。競売で安く落札されるより、先に業者を通して売却し、お金を作って債権者と交渉し、手元にお金も残しつつ債務を無くす、あるいは第三者に物件を買い取ってもらい、賃貸契約でそのまま自宅に住む、など、ダメージを軽減する複数の方法がありました。
しかし当時の私は、あまりの極限状況と、人脈をフル活用して当たっていたいくつかの金策がもしかしたら上手くいくかもしれない、という微妙な状況で、自宅を無くすということへの危機感が麻痺していたのか、こうした業者の提案に対して「どうせまた上手いこと言ってボラれるだけだろ・・・」と、耳を貸すことは一切ありませんでした。
今思えば、ここで任意売却などの救済手段を真剣に検討していたら、その後の状況はいくらかマシだったのではないかと強く後悔しています。
競売の流れ
そうこうしているうちに入札期間が訪れます。
期間中の入札状況は確認することができませんので、開札日まで私はただ「入札者が現れず不成立になりますように」という根拠のない神頼みをするしかありませんでした。
しかしながら入札期間終了1週間後の開札日。その望みは打ち砕かれます。
結果としては16の入札者があり、自宅は売却基準価額の二倍近い価格で落札されていました。
これは物件を新築で購入した当時の85%ほどの価格で、比較的人気の高いエリアだったことや、昨今の不動産価格の高騰を背景として、予想外の高値がついたようです。
競売後
落札が決定したからには、今後私が自宅を守るためにできることはただ一つ、落札した不動産業者との交渉で、自宅を買い戻すことのみ。
いくつか事業上のつながりを辿って行なっていた金策に望みを繋いでいた私は、数日以内に裁判所に出向いて落札者の確認をし、交渉を持ちかける予定でした。
すると驚いたことに、この開札日当日、落札者(正確にはその仲介業者)が突然自宅を訪れたのです。落札者は当社が落札した旨と、引渡しはいつできるのか、という具体的なスケジュール調整にいきなり入ってきました。
先手を打たれた私は狼狽しつつも、買い戻しの意向を伝え、この日はそのまま帰ってもらいましたが、結局のところ金策が間に合わず、買い戻しはできなかったため、物件を引き渡すこととなってしまいました。
11月の中旬ごろ、あらためて裁判所の執行官が自宅を訪れ「催告書」という書面を手渡されました。催告書には12月初旬に物件引渡しの強制執行を行うので、必要なものは全て物件から引き上げておくように、物件内に残っているものは処分します、という内容の記載がありました。
ただ、実際には執行官に依頼すれば、どうしても引き上げきれない家財などは、貸し倉庫に一時保管することできる(当然保管費用はこちらが負担します)とのことでした。
また、同内容の書面を自宅内の壁に貼り付けられ「退去が終わるまで剥がさないように」と告知されました。漫画やドラマでたまに「差押」の赤い紙をドアなどにベタベタと貼るシーンがありますが、実際はもっと事務的な書類で、屋内のあまり目立たない場所に貼るのは、執行官のせめてもの情け、といったところでしょうか。
この催告手続きは、競売の最終的なトドメと言いますか「ああ、終わった」と私を絶望させるに十分なものでした。
ここから物件の引き渡し(強制退去)までの数週間は、取り急ぎ退去後の住まいの確保や引越しの段取り、関係各所への連絡、そして何より最も気が重い家族への報告など、怒涛のような毎日を過ごしました。
退去前日には、慌ただしく家財を梱包し、部屋は段ボールでいっぱいになりました。
本当に明日でこの家に住めなくなるのか?この期に及んでもまだ実感がなく、そわそわした気持ちだけだったと記憶しています。
そしていよいよ退去当日。
妻や子供にはショックが大きすぎると考え、私だけが立ち会いました。
裁判所の執行官と、落札した不動産業者、そして運送業者が数名早朝に訪れ、ものすごい勢いで家財を運び出します。一般的な引越し業者のような丁寧さはなく、スピードだけを重視したある意味手際の良い作業。所要時間は数時間ほどだったでしょうか。
呆気にとられているうちに住み慣れた我が家は空っぽの空き家になってしまいました。
最後に不動産業者に鍵を渡し、引き渡し書類にサインをしました。何とも言えない表情で見守るマンションの管理人さんに挨拶を済ませます。名実共に自宅が無くなってしまった瞬間でした。
借金は?
さて、債権者に対する負債はどのようになったのか、ですが、物件落札後2週間で、落札者が正式に物件を買うことを許可される「売却決定通知」という手続きがあります。この決定の後、落札者は裁判所に落札代金を支払います。
支払われた代金から債権額分が、債権者に支払われますので、これによって債権回収となります。
今回の落札代金は、債権者の持つ債権額を上回っていましたので、債権者は満額を回収できたと思われます。
残った代金は「剰余金」として、私が返還される権利を持っていますが、私が事業を失敗して滞納していた法人税があったため、自動的にそちらに充当されてしまい、私の手元に戻る資金はゼロでした。
なお、この一連の競売手続きに関しては、私が負担する費用はありませんでしたが、最後に物件引き渡しの際、持ち出しきれなかった家財を裁判所に一時保管してもらったため、その保管料(貸し倉庫代)は自己負担となりました。
今、私はどうにか見つけた元の自宅の比較的近くにある賃貸住宅に引っ越し、未だ続く他の債権者との交渉に明け暮れています。
落札された物件には新たな住人がいるようで、時折元自宅の近くを通った際、その部屋に灯りが灯っているのを見るたび、苦い記憶が蘇ります。購入した時には予想もしていなかった状況ですが、まだギリギリの生活ができていることに感謝し、絶対に再起しようと決意しています。
後悔。競売対策、競売を回避する方法も
競売の決定から落札、物件の引渡しまでおよそ9ヶ月弱。
私は根拠の薄い希望的観測にすがって最悪の結末を迎えてしまいましたが、冷静に比較検討すれば、期間内に打てる手はいくつもあったと悔やまれます。
例えば前述したように、業者(競売情報が公開されるとDMが多数届きます)に依頼して、落札前に別の投資家に売却し、売却代金を返済に充てる「任意売却」は有効であると思います。
物件の価値がそれなりにあれば、一定の資金が手元に残る可能性が高いですし売却の手続きから債権者との交渉まで業者に一任できますので、実務の手間だけでなく精神的ストレスも軽減できます。
売却後に引越しせず、家賃を払ってそのまま住み続ける「リースバック」という方法もあります。
あるいは身内や知り合いに資金を借りられる先があれば、いったんその人に買い取ってもらう、ということも考えられます。
ただし、いずれの方法も入札が始まってしまうと使えません。
落札されてしまえば、あとは落札業者から買い戻すしか方法がなく、業者は当然ながら落札代金に利益を乗せて販売しようとしますので、より多くの資金を用意しなければなりません。
そもそも資金がないために競売が始まってしまったことを考えれば、落札後の買い戻しは実現する可能性が低いと思います。
本来は競売の可能性が見えていた時点(私の場合であれば裁判の判決が出た2022年3月)から即座に行動していれば、経済的ダメージは少なかったはずです。
思考停止せず、あらゆる可能性を模索すべきだったと思います。
また自分だけで抱え込まず、弁護士や任意売却専門の不動産業者などに、早めに相談してみることも検討すべきでしょう。
同じような境遇の方が少しでも有効な対策がとれる一助になれば幸いです。