不動産売買における手付金とは?意味・性質、ローン審査に落ちたら返ってくる?頭金・申込金・内金・中間金との違いは?

手付金とは?手付金の意味・性質、ローン審査に落ちたら手付金は返還されるのか、頭金・申込金・内金・中間金との違い

土地・建物やマンションの売買契約では、多くの場合、買主から売主に手付金が支払われ、最終的に物件引き渡し時(決済時)に売買代金に充当されます。

そのため手付金は、頭金などと同じく売買代金の一部であると思われがちですが、手付金にはそれ以外にも重要な意味があり、頭金などとは性質が異なります。

ここでは手付金とは何か?意味と性質、ローン審査に落ちたら手付金は返ってくるのか?「頭金」「申込金」「内金」「中間金」との違いについて解説します。

手付金とは?民法、宅建業法それぞれにおける手付金の意味、性質

手付金とは、売買において、買主が売主に対しあらかじめ支払う金銭をいいます。

不動産の売買では買主がローンを組む場合、売買契約後でないとローンの本審査が通らないため、売買契約後おおよそ1か月以内の期間をあけて代金の決済(物件の引き渡し、所有権移転登記)をします。

不動産の権利の移転は、売買代金全額決済による所有権の移転登記により完了するため、契約から所有権移転登記の完了まで売主も買主も不安定な状態になります。

そこで、売買契約時に、契約から決済(所有権移転)までの間に起こりうる様々なリスクを回避するために買主が売主に手付金を支払う慣行があります。

民法上、手付金には、「証約手付」「違約手付」「解約手付」の3つの種類があります。

証約手付…売買契約の成立を表し、契約の成立を証明するために支払われる金銭をいいます。

違約手付…契約違反があった時に、没収されるものとして支払われる金銭をいいます。
買主の違約による契約解除の場合は、違約金として手付金が没収され、売主の違約による契約解除の場合は、売主は手付金を返還し、手付金と同額を違約金として支払います。

解約手付…売買契約成立後に契約を解除する時に備えて支払われる金銭をいいます。売買契約の気軽な解約を防ぐ役割があります。

手付金が解約手付である場合、買主、売主とも相手方が契約の履行に着手するまでは、契約解除するのに買主、売主とも相手方の承諾は不要で、他の損害賠償をすることなく契約を解除することができます。

買主から契約解除する場合は、手付を放棄して、売主から契約解除する場合は、受け取った手付金を全額返還し、さらに同額を買主に支払って(手付倍返し)契約を解除することができます。

民法においては、手付金の種類は、当事者間の合意により決められます。特段の定めがない場合は、解約手付と推定(※)されます。

一方、宅建業法においては、宅地建物取引業者が売主となる場合は、手付金の種類を当事者間でどのように決めても解約手付とみなされ(※)ます。

このように手付金は、売買契約において、契約成立を示す証拠金として、または、相手方の債務不履行の有無に関係なく解約権を認める目的で、もしくは、相手方に債務不履行があった場合の損害賠償の予定や違約金として、買主から売主に支払われる金銭です。

そのため売買契約が成立した場合、手付金は結果的に売買代金の一部になりますが、法的には手付金は売買代金の一部としての性質はありません。

よって手付金を支払ったからといって、当然に売買代金の一部を支払ったことにはなりません。

なお手付金の額については、民法上の制限はありません。実務では売買代金の5%~20%に決められることが多いようです。

※「推定する」と「みなす」の違い
「推定する」「みなす」いずれも、事実関係などが不明瞭な時に、法律上、特定の状態を本当の事実として擬制するものです。

しかし、「推定する」は、一応は擬制するものの、確定ではなく、反証できれば擬制されたことを覆すことができます。

一方、「みなす」は、反証は認められず、一度犠牲されると、たとえ事実と違っても、犠牲されたことを覆すことはできません。

よって、民法において、手付金の性格が解約手付と推定されても、当事者間で証約手付や違約手付の合意書により反証できれば、解約手付の推定を覆すことができますが、宅建業法においては、売主が宅地建物取引業者である限り当事者間の証約手付や違約手付の合意書があっても解約手付と確定されますので、これを覆すことはできません。

ローン審査に落ちたら手付金は返ってくるのか

不動産の売買では、多くの場合、金融機関からのローンによって売買代金が支払われます。

そのため、不動産の売買契約、手付金の授受が終わった後、ローン審査に通らなかった場合、買主は購入資金がなくなりますが、代金支払い義務は逃れられず、期日までに支払えない場合、契約違反となり、違約金や損害賠償金などを売主から請求されることになります。

一般的に違約金や損害賠償金は手付額を上回るため、民法では、売主が契約の履行に着手するまでは手付を放棄して契約を解除することができることになっています(民法557条1項)。

手付金の性質について売主買主間で「証約手付」や「違約手付」の取り決めがない限り、「解約手付」と推定されますので、買主は手付金を放棄することで、代金支払い義務を逃れることができ、損害賠償金を支払う必要がなくなります。

いずれにせよ通常の場合、買主が不動産の購入代金を支払えない場合、手付金は返ってきません。

ローン審査に落ちても手付金が返ってくる場合

ローン審査に落ちても手付金が返ってくるケースとしては、
・ローン特約(融資特約)がある場合
・売買契約が錯誤による場合
があります。

ローン特約(融資特約)がある場合

ローン特約(融資特約)とは、買主がローン契約できず融資が受けられなかった場合、違約金等の負担をすることなく無条件で不動産の売買契約を解除でき、手付金も全額返還されるというものです。

ローン特約を結んでおくことで、買主がローンの申込みや書類の準備をしなかったなど買主に過失が無い限り、ローンの契約ができなくても、特約に基づいて契約解除の意思表示をすれば、無条件で手付金が変換されます。

(住宅)ローン特約・融資特約とは?

売買契約が錯誤による場合

契約において錯誤とは、表示行為と真実とが異なり、さらにその違いを意思表示者が知らないことをいいます。

錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができます(民法95条1項 本文)。

不動産の売買契約における例でいうと、売買の成立には買主が融資を受けられることが重要な前提条件であるが、実際は、買主は融資を受けられない状況だったという場合です。

このような場合は、契約を取り消すことで、手付金を返してもらうことができます。

手付金と頭金・申込金・内金・違約金との違い

手付金、頭金、申込金、内金いずれも、売買契約が成立した場合、売買代金の一部になりますので、これらは同じものと認識されがちですが、手付金は民法や宅地建物取引業法などの法律により、その性質や上限額、保全措置方法などが定められた法律上の概念であるのに対し、頭金や申込金、内金は法律で定められたものではなく、契約の当事者間でその内容が決められるものです。

頭金とは?手付金との違いは?

不動産取引において頭金とは、不動産の購入代金に充当する目的で、自己資金などローン以外の方法で支払う資金をいいます。
価格1,000万円の不動産を購入し、ローンで800万円を資金調達する場合、200万円(1,000万円-800万円)が頭金になります。

頭金は法律で定められたものではなく、金額や支払いの時期は売主買主の当事者間で自由に決めることができます。フルローンで不動産を購入する場合は、頭金は無いこと(ゼロ)になります。

手付金との違いには、

  1. 手付金には法的に売買代金の一部を構成する性質はないが、頭金は売買代金の一部を構成するものであること
  2. 手付金は契約時に支払うが、頭金は契約成立から物件引き渡しまでの間に支払うこと
  3. 宅地建物取引業者が売主で宅地建物取引業者以外が買主の場合、宅地建物取引業法で手付金の額は売買代金の20%までと上限が決められているが、頭金について上限額を定めた法律はなく、当事者間で自由に決められること
  4. 手付金には売主も買主も手付金額に相当する額を負担することで、相手方の承諾を得ることなく自らの意思表示だけで契約を解除する権利が法的に認められている(相手方が履行に着手する前に限る)が、頭金にはそのような権利はないこと

などがあります。

なお、宅地建物取引業者が売主で宅地建物取引業者以外が買主の場合、物件の引き渡し前までに授受される金銭については頭金や手付金等の名目を問わず、銀行等を連帯保証人にする、保険を掛ける、あるいは保管期間に預かってもらうなどの保全措置が要求されます。

また、頭金を支払うタイミングは物件引き渡しまでで、手付金の役目は物件引き渡しにより完了しますので、多くの場合手付金は頭金に充当されます。

申込金とは?手付金との違いは?

申込金とは、「優先的に購入できる」など不動産を抑える目的で、売買契約前の購入申し込みの段階で買主が売主に支払う金銭で、「申込証拠金」や「買付証拠金」などと呼ばれることもあります。

買主の購入意思を売主に示すためのもので金銭の授受に法的な根拠はなく、当事者間で自由にルールを決められ、必要ないことも多いです。

基本的に売買契約が成立すると、売買代金に充当され、申し込みをキャンセルすると返還されるものですが、金銭の支払いに法の適用が及ばす、当事者の取り決めによるものですので、トラブル防止の観点から金銭を支払う前に売買契約成立時、申込キャンセル時の取り扱いなどを確認しておくべきです。

手付金との違いとしては、

  1. 手付金には法的に売買代金の一部を構成する性質はないが、申込金は当事者間の約定で売買代金に充当できるものであること
  2. 手付金は契約時に支払うが、申込金は契約成立前の申し込みの段階で支払うこと
  3. 宅地建物取引業者が売主で宅地建物取引業者以外が買主の場合、宅地建物取引業法で手付金の額は売買代金の20%までと上限が決められているが、申込金について上限額を定めた法律はなく、当事者間で自由に決められること
  4. 手付金には売主も買主も手付金額に相当する額を負担することで、相手方の承諾を得ることなく自らの意思表示だけで契約を解除する権利が法的に認められている(相手方が履行に着手する前に限る)が、申込金にはそのような権利はないこと

などがあります。

内金とは?手付金との違いは?

内金とは、手付金とは別に、売買契約成立後に売買代金の一部前払の趣旨で、買主から売主へ支払う金銭のことです。

内金の授受は建物の建築工事の請負契約ではよくありますが、不動産売買契約において内金の授受を行うことはほとんどあまりありません。

手付金との違いとしては、

  1. 手付金には法的に売買代金の一部を構成する性質はないが、内金は売買代金の一部であること
  2. 手付金は契約時に支払うが、内金は契約成立後に支払うこと
  3. 宅地建物取引業者が売主で宅地建物取引業者以外が買主の場合、宅地建物取引業法で手付金の額は売買代金の20%までと上限が決められているが、内金について上限額を定めた法律はなく、当事者間で自由に決められること
  4. 手付金には売主も買主も手付金額に相当する額を負担することで、相手方の承諾を得ることなく自らの意思表示だけで契約を解除する権利が法的に認められている(相手方が履行に着手する前に限る)が、内金にはそのような権利はないこと

などがあります。

買主から売主に支払われる金銭が、手付金か内金であるかは、売主と買主の合意によって決まります。

手付金であれば、証約手付や違約手付、解約手付の意味をもちますが、当然に売買代金の一部が支払われたことにはなりません。

逆に、内金であれば、解約権や違約金の意味はありませんが、売買代金の一部を支払ったことになります。

そのため、売主と買主は、授受される金銭が手付金なのか内金なのかを、あらかじめ書面にょり明確にしておく必要があります。

中間金とは?手付金との違いは?

中間金とは、手付金とは別に、売買契約成立後手付金を支払った後、決済までの間に売買代金の一部前払の趣旨で、買主から売主へ支払う金銭のことです。

金銭の授受に法的な根拠はなく、中間金を支払うかどうかや支払額は、売主と買主の間で自由に決められ、支払われないことが多いです。

中間金を支払う理屈理屈としては、売主が別物件を購入するための手付金や必要経費に充てるため等があります。

手付金との違いとしては、

  1. 手付金には法的に売買代金の一部を構成する性質はないが、中間金は売買代金の一部であること
  2. 手付金は契約時に支払うが、中間金は契約成立後に支払うこと
  3. 宅地建物取引業者が売主で宅地建物取引業者以外が買主の場合、宅地建物取引業法で手付金の額は売買代金の20%までと上限が決められているが、中間金について上限額を定めた法律はなく、当事者間で自由に決められること
  4. 手付金には売主も買主も手付金額に相当する額を負担することで、相手方の承諾を得ることなく自らの意思表示だけで契約を解除する権利が法的に認められている(相手方が履行に着手する前に限る)が、中間金にはそのような権利はないこと

などがあります。

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