宅地建物取引業者に支払う仲介手数料は、売買契約や賃貸借契約の成立により発生する成功報酬です。
①依頼者と宅地建物取引業者が媒介契約を締結
②媒介契約に基づき宅地建物取引業者が媒介行為をしている
③媒介行為の結果により、売買や賃貸借の契約が成立している
④宅地建物取引業者の行為と売買や賃貸借契約の成立との間に相当の因果関係があること
の要件を満たしていれば、宅地建物取引業者は仲介手数料の請求権を持ち、依頼者には仲介手数料の支払義務が生じます。
このように、不動産の仲介手数料は成功報酬ですので、売却や購入の媒介があっても、契約が成立しなかった場合は、仲介手数料を請求する権利、支払う義務は発生しません。
では、宅地建物取引業者の媒介により売買契約が成立したものの、その後に契約無効や取消、手付解除、ローン特約による売買契約の解除などになった場合、仲介手数料はどうなるのでしょうか。
ここではそういった、不動産の売買契約成立後に何らかの理由で契約が解除された場合の、仲介手数料の取り扱いについて解説します。
不動産の売買契約が解除になる場合
不動産の売買契約が解除になる場合には次のようなものがあります。
・契約の無効、取消
・手付放棄・手付倍返しによる解除
・契約違反や合意による解除
・売買代金の未払いなど債務不履行による解除
・引渡前の滅失・毀損の場合の解除
・ローン特約による解除
・停止条件付の未成就による解除(借地権譲渡について土地賃貸人の承諾を得ることを条件とする契約条項に基づく解除、買替特約による解除など)
契約の無効、取消の場合
売買契約が無効であった場合は、売買契約が有効に成立したことにならないため仲介手数料の請求権は発生しません。
また、売買契約が取り消された場合、契約は遡及的に効力を失い初めから存在しなかったことになり、売買契約は成立していないことになるため、仲介手数料の請求権は発生しません。
手付放棄・手付倍返しによる解除の場合
標準媒介契約約款には、「媒介によって目的物件の売買又は交換の契約が成立したときは、報酬を請求することができます」、「宅地建物取引業法第37条に定める書面を作成し、これを成立した契約の当事者に交付した後でなければ、報酬を受領することができない」とあり、宅地建物取引業者による仲介手数料の請求権は、売買契約が成立した時点で発生し、物件の引き渡し・決済までは要求されないとされ、手付解除の場合は、売買契約が一度有効に成立していることから、宅地建物取引業者は仲介手数料を全額請求する権利があると考えられます。
裁判でも「いったん有効に成立した売買契約が手付金放棄により解除されたからといって、媒介契約に基づく報酬請求をすることができないと解することは相当でない。」とし、宅地建物取引業者の報酬請求権を認めています(福岡高裁那覇支部平成15年12月25日判決)。
ただし、上記の裁判では、下記の理由により、「約定の報酬額をそのまま請求できると解することもできない。」とし、報酬額の全額は請求できないとしています。
「仲介による報酬は、売買契約が成立し、その履行がされ、取引の目的が達成された場合について定められていると解するのが相当である。特に、手付金放棄による解除の場合は、売買契約締結に際して解約手付が授受され、手付放棄又は倍返しによる解約権が留保されていることは、媒介した宅地建物取引業者も認識していたはずで、手付放棄又は倍返しによる解除の可能性を念頭に置くべきであり、その場合に備えて報酬額についての特約を予め媒介契約に明記しておくことは容易であったと考えられる。また依頼者も、媒介契約書に特約が明記されるか、契約締結時に宅地建物取引業者から手付解除時の報酬の説明を受けたという事情でもない限り、履行に着手する以前に買主が手付金を放棄して売買契約を解除したような場合にも仲介手数料の額についての媒介契約での合意がそのまま適用されるとは考えないのが通常である。さらに、仲介手数料の弁済期が売買残代金の弁済期と同日であること、媒介業者は契約成立後の代金の授受や目的物件の引渡等に関する事務も付随的に行うのが通常と考えられる。よって手付金放棄により売買契約が解除されればこれらの事務を行う必要がなくなることをも考慮すれば、手付金放棄によって売買契約が解除された場合には報酬額についての媒介契約での合意は適用されないとするのが媒介契約当事者の合理的意思に合致する。」
以上のことからすれば、媒介契約にて「手付解除時でも全額の報酬請求権が発生する」旨の取り決めをしておけば、手付解除となった場合でも宅地建物取引業者は仲介手数料を全額請求できる可能性があると思われます。
いずれにせよ、トラブルを防ぐために、媒介契約にて手付解除になった場合の媒介報酬をどうするかを取り決めておくことが重要です。
契約違反や合意による解除の場合
売主または買主に契約違反がある場合、あるいは両者の合意により契約解除する場合、一度は契約が成立し、宅地建物取引業者には落ち度が無いため、宅地建物取引業者の報酬請求権は発生します。
ただし、媒介契約書に売主または買主の契約違反や合意による解除の場合でも全額の報酬請求が発生する旨の記載が無い場合、当事者の目的が達成されていないので、仲介手数料が減額となる可能性があります。
債務不履行による解除の場合
買主が残代金を支払えない、売主が契約どおりに物件の引き渡しができないなど売主、買主のいずれかが義務が履行できない場合、債務不履行により契約が解除されることがあります。
この場合、売買契約は有効に成立しており、債務不履行は宅地建物取引業者が行った業務とは関係ないので、宅地建物取引業者は仲介手数料を請求することができます。
ただし、債務の履行がされず契約解除となった場合は、仲介業者は全額請求できますが、最終的には減額される可能性があります。
また、契約締結時に債務不履行により契約が解消されるであろうことが予想されていた場合、宅地建物取引業者の業務内容が期待されたものではないため仲介手数料も減額される可能性があります。
引渡前の滅失・毀損による解除の場合
物件の引き渡し前に地震や台風、火災など、売主にも買主にも責任の無い要因で引き渡しができなくなることがありますが、民法では、対象不動産の引渡しが不可能になったときは、売主、買主に契約の解除権を与えています。
そして、売主または買主の解除権の行使により売買契約が解除されると、売主は受領済みの金員全額を無利息で買主に返還し、買主は仮登記等があれば、その抹消登記をするなどの原状回復だけで済み、売買代金の支払いを免れ、売主は引き渡し義務が無くなります。
この場合、契約は白紙解除と解するのが妥当と考えられ、その場合、宅地建物取引業者の仲介手数料請求権は消滅します。
ローン特約による解除の場合
ローン特約による解除には、停止条件の未成就によるもの(停止条件型)、解除条件の成就によるもの(解除条件型)、解除権留保型による解除権の行使(解除権留保型)の3つがあります。
停止条件型、解除条件型については、融資の不成立により売買契約が白紙解除となりますのでローン特約による契約解除の場合、仲介手数料は発生しません。
解除権留保型については、契約の解除権を買主が行使することで売買契約が消滅しますので、売買契約締結時に契約の効力は有効に発生しています。
そのため、宅地建物取引業者は契約締結時に仲介手数料の一部を請求していることがよくあります。
ローン特約による売買契約の解除は、宅地建物取引業者の責任ではないため仲介手数料の請求権に影響がないと考えられます。
しかし、一般的には媒介契約でローン特約による契約解除の場合には、仲介手数料は発生しないこととしています。
よって、解除権留保型ローン特約付きの売買契約を結ぶ場合には、媒介契約でローン特約により契約解除した場合の仲介手数料について明確に定めておく必要があります。
停止条件付の未成就による解除の場合
停止条件が成就しなかったことにより契約が解除された場合には、契約は白紙解除となりますので、宅地建物取引業者の仲介手数料の請求権は発生しません。