ローンの本審査が通らなかった時のためにローン特約(融資特約)をつけて契約しますが、ローン特約(融資特約)をつけて売買契約してもトラブルになるケースが多いので、特約条項の文言には注意が必要です。
例えば、特約条項の金融機関の欄に「○○銀行、他」などと書かれている場合、○○銀行で融資を断られても、「○○銀行以外で借りられるのであれば売買契約をしなければならない」「銀行でなく金利の高いノンバンクでもよい」と解釈でき、また融資金額欄が空欄の場合、「希望の半額しか借りられなくても売買契約しなければならない。売買代金が全額払えなければ違約金や損害賠償金を支払わなければならない。」と解釈でき、売買契約を無償で白紙にできないことになりかねません。
こういったことは、売買契約時に「どこの金融機関が貸してくれるかわからない」「自分の返済能力が分からない」といった事情もありますが、買主の「どうしても買いたい」といった気持ちや、売主や仲介業者の「融資が受けられないことで売買契約を解除されたくない」「ローンの返済は買主の責任」といった気持ちも否めません。
また売買契約後、買主が購入意欲をなくし契約を解除したいときに、違約金の支払いを逃れるためにローン特約(融資特約)を悪用し、融資の審査が通らないよう所得の過少申告や担保提供の拒否などをして、意図的に融資の審査に通らないようにし、白紙解除に持ち込むといったこともあります。
このようにローン特約(融資特約)は、使い方によっては売主・買主双方にとって「抜け道」のように使われる可能性がありますので、ローン特約(融資特約)条項の文言には注意が必要です。
ローン特約・融資特約の文言の具体例
ローン特約(融資特約)の具体的な文言は様々考えられますが、停止条件型と解除条件型、解除権留保型に分けて文言の具体例を紹介します。
停止条件型の文言例
下記はあくまで例です。金利(利率、固定か変動か)や借入期間、返済方法(元利均等返済か元金均等返済かなど)などの条件も付すことができます。 (I)―1 融資利用の場合(第〇〇条)
(I)―1 融資利用の場合(第〇〇条)
融資申込先 | 融資承認予定日 | 融資金額 |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 |
融資利用予定総額 | 円 |
融資未承認の場合の契約解除期限 | 年 月 日 |
(I)―2(第〇〇条)
買主自主ローンの場合の融資利用に必要な書類の最終提出日 | 年 月 日 |
(融資利用の場合) 第〇〇条 買主は、この契約締結後すみやかに、標記の融資(I)―1のために必要な書類を揃え、その申込手続きをしなければならない。
2 標記の融資未承認の場合の契約解除期限(I)―1までに、前項の融資の全部又は一部について承認を得られないとき、又、金融機関の審査中に標記の融資未承認の場合の契約解除期限(I)―1が経過した場合には、本売買契約は自動的に成立する。
3 前項によってこの契約が解除された場合、売主は、受領済の金員を無利息で遅滞なく買主に返還しなければならない。同時に本物件の売買を媒介した宅地建物取引業者も受領済の報酬をそれぞれ売主・買主に無利息にて返還しなければならない。
4 買主自主ローン(※)の場合、買主は、融資利用に必要な書類を標記(I)―2までに金融機関等に提出し、その提出書類の写しを売主に提出しなければならない。買主が、必要な手続きをせず提出期限が経過し、売主が必要な催告をしたのち標記の融資未承認の場合の契約解除期限(I)―1が過ぎた場合、あるいは故意に虚偽の証明書等を提出した結果、融資の全部又は一部について承認を得られなかった場合には、第2項の規定は適用されないものとする。
※宅地建物取引業者の斡旋を受けずに買主が金融機関を選択してローンを申し込むこと。
買主のローン特約(融資特約)の悪用を防ぐために、1項、4項で買主のローン申し込みの強制、買主が銀行に提出した書類の写しの売主への提出により、買主がローンの申し込みをしないことをけん制するとともに、「買主が、必要な手続きをせず提出期限が経過した場合」や「故意に虚偽の証明書等を提出した結果、融資の全部又は一部について承認を得られなかった場合」は売買契約の白紙解除ができないようにしています。
解除条件型の文言例
下記はあくまで例です。金利(利率、固定か変動か)や借入期間、返済方法(元利均等返済か元金均等返済かなど)などの条件も付すことができます。
(I)―1 融資利用の場合(第〇〇条)
融資申込先 | 融資承認予定日 | 融資金額 |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 |
融資利用予定総額 | 円 |
融資未承認の場合の契約解除期限 | 年 月 日 |
(I)―2(第〇〇条)
買主自主ローンの場合の融資利用に必要な書類の最終提出日 | 年 月 日 |
(融資利用の場合)
第〇〇条 買主は、この契約締結後すみやかに、標記の融資(I)―1のために必要な書類を揃え、その申込手続きをしなければならない。
2 標記の融資未承認の場合の契約解除期限(I)―1までに、前項の融資の全部又は一部について承認を得られないとき、又、金融機関の審査中に標記の融資未承認の場合の契約解除期限(I)―1が経過した場合には、本売買契約は自動的に解除となる。
3 前項によってこの契約が解除された場合、売主は、受領済の金員を無利息で遅滞なく買主に返還しなければならない。同時に本物件の売買を媒介した宅地建物取引業者も受領済の報酬をそれぞれ売主・買主に無利息にて返還しなければならない。
4 買主自主ローンの場合、買主は、融資利用に必要な書類を標記(I)―2までに金融機関等に提出し、その提出書類の写しを売主に提出しなければならない。買主が、必要な手続きをせず提出期限が経過し、売主が必要な催告をしたのち標記の融資未承認の場合の契約解除期限(I)―1が過ぎた場合、あるいは故意に虚偽の証明書等を提出した結果、融資の全部又は一部について承認を得られなかった場合には、第2項の規定は適用されないものとする。
買主保護として、2項、3項で契約解除期限までに希望額全額の融資が受けられなかった場合の自動的な白紙契約解除を定めています。
また一方で、買主のローン特約(融資特約)の悪用を防ぐために、1項、4項で買主のローン申し込みの強制、買主が銀行に提出した書類の写しの売主への提出により、買主がローンの申し込みをしないことをけん制するとともに、「買主が、必要な手続きをせず提出期限が経過した場合」や「故意に虚偽の証明書等を提出した結果、融資の全部又は一部について承認を得られなかった場合」は売買契約の白紙解除ができないようにしています。
解除権留保型の文言例
下記はあくまで例です。金利(利率、固定か変動か)や借入期間、返済方法(元利均等返済か元金均等返済かなど)などの条件も付すことができます。
(I)―1 融資利用の場合(第〇〇条)
融資申込先 | 融資承認予定日 | 融資金額 |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 |
融資利用予定総額 | 円 |
融資未承認の場合の契約解除期限 | 年 月 日 |
(I)―2(第〇〇条)
買主自主ローンの場合の融資利用に必要な書類の最終提出日 | 年 月 日 |
(融資利用の場合)
第〇〇条 買主は、この契約締結後すみやかに、標記の融資(I)―1のために必要な書類を揃え、その申込手続きをしなければならない。
2 標記の融資未承認の場合の契約解除期限(I)―1までに、前項の融資の全部又は一部について承認を得られないとき、又、金融機関の審査中に標記の融資未承認の場合の契約解除期限(I)―1が経過した場合には、買主は標記の融資未承認の場合の契約解除期限(I)―1の〇〇日経過後まではこの契約を解除することができるものとする。
3 前項によってこの契約が解除された場合、売主は、受領済の金員を無利息で遅滞なく買主に返還しなければならない。同時に本物件の売買を媒介した宅地建物取引業者も受領済の報酬をそれぞれ売主・買主に無利息にて返還しなければならない。
4 買主自主ローンの場合、買主は、融資利用に必要な書類を標記(I)―2までに金融機関等に提出し、その提出書類の写しを売主に提出しなければならない。買主が、必要な手続きをせず提出期限が経過し、売主が必要な催告をしたのち標記の融資未承認の場合の契約解除期限(I)―1が過ぎた場合、あるいは故意に虚偽の証明書等を提出した結果、融資の全部又は一部について承認を得られなかった場合には、第2項の規定は適用されないものとする。
※融資承認予定日と融資未承認の場合の契約解除期限は数日日程をずらします。これは、買主の売主への契約解除の意思表示を書面でやり取りするために時間が必要なためです。
解除条件型との違いは、2項にあるように、契約解除期限の到来による自動的な契約解除ではなく、「解除することができる」とし、買主に売買契約解除権行使の選択を与えていることです。
なお、買主は契約解除期限までにローンの本審査が通らなくても、売主への意思表示により売買契約を継続することも、ローン特約(融資特約)を使い契約解除することもできますが、意思表示が売主に到達しないトラブル、リスクを回避するために、売主への意思表示は対面による書面のやり取りや内容証明郵便によることを売買契約書に記載しておくこと、売買契約を延長する際の融資特約変更合意書やローン特約(融資特約)を使い契約解除する場合の売主への意思表示の文言についてもあらかじめ合意しておくことをおすすめします。
ローン特約・融資特約の期限・期間延長依頼の時の文言
ローン特約(融資特約)の適用可能な期限・期間は売買契約書に記載されますので、金融機関の本審査が長引き、ローン特約(融資特約)の適用期限を過ぎてしまいそうな場合は、後々のトラブル防止のため融資特約の変更合意を書面で交わしておく必要があります。 融資特約変更合意書の文言 具体例
融資特約変更合意書
売主と買主は、 年 月 日付 不動産売買契約書「(I)―1 融資利用の場合」の内容を下記のとおり変更することに合意する。
記
(I)―1 融資利用の場合(第〇〇条)
融資申込先 | 融資承認予定日 | 融資金額 |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 | |
年 月 日まで | 円 |
融資利用予定総額 | 円 |
融資未承認の場合の契約解除期限 | 年 月 日 |
年 月 日 売主 住所 氏名 ㊞ 買主 住所 氏名 ㊞