住宅ローンの基礎知識Ⅲ 返済方法、つなぎ融資、分割融資、借り換え

住宅ローンの基礎知識Ⅱ 金利の種類、諸費用」に続き、ここでは住宅ローンの返済方法、つなぎ融資、分割融資、借り換えについて紹介します。

住宅ローンは返済期間が長く、返済計画を立てにくいことなどから複数の返済方法が用意されています。

さらにローンの返済過程では、転職や失業、転勤・引っ越し、病気、景気の悪化などローン契約時には想定していなかった、また想定できなかった様々な事情が生じ、こういった事象が起こってきたときは、返済方法の変更や繰り上げ返済、借り換えの検討が必要になります。

また建売住宅でなく、土地を購入し注文住宅を建てるなど土地と建物の購入のタイミングが異なる時は、土地の購入代金に住宅ローンが使えないことなどから「つなぎ融資」「分割融資」が必要になります。

◇住宅ローンの返済方法

住宅ローンの返済方法には、「元利均等返済」と「元金均等返済」があります。

元利均等返済とは、元金と利息を合わせた毎月の返済額が均等となる返済方法です。

返済当初は支払い額に占める利息の割合が多く、返済が進むにつれ元金の割合が増えます。月々の返済額が一定問メリットがありますが、ローン残高がなかなか減らないというデメリットがあります。

元金均等返済とは、元金の返済額が毎月均等になるようにし、それに利息を加えた額を支払う方法です。

返済当初は月々の支払額が多くなりますが、返済が進むと利息の支払いが減る分だけ月々の支払返済額は減っていきます。

金利と返済期間が同じであれば、支払総額は元利均等返済よりも少なくてすみます。

なお、月々の返済額が一定であるほうが返済計画を立てやすいことから、住宅ローンは元利均等返済が一般的です。金融機関によっては元金均等返済を取り扱っていない場合もあります。

借入額5,000万円、利率2%、返済期間10ヶ月を例に元利均等返済と元金均等返済を比較すると次のようになります。

元利均等返済                      (単位:円)

 元金返済額利息支払合計
1か月 4,962,61483,3335,045,947
2か月4,970,88575,0625,045,947
3か月4,979,17066,7775,045,947
4か月4,987,46958,4785,045,947
5か月4,995,78150,1665,045,947
6か月5,004,10741,8405,045,947
7か月5,012,44833,4995,045,947
8か月5,020,60225,1455,045,947
9か月5,029,17016,7775,045,947
10か月5,037,55425,1455,045,949
合計50,000,000459,47250,459,472

元金均等返済                      (単位:円)

 元金返済額利息支払合計
1か月5,000,00083,3335,083,333
2か月5,000,00075,0005,075,000
3か月5,000,00066,6675,066,667
4か月5,000,00058,3335,058,333
5か月5,000,00050,0005,050,000
6か月5,000,00041,6675,041,667
7か月5,000,00033,3335,033,333
8か月5,000,00025,0005,025,000
9か月5,000,00016,6675,016,667
10か月5,000,0008,3335,008,333
合計50,000,000458,33350,458,333

元金返済額は5、000万円で同じですが元金均等支払のほうが利息が多くなる分、総支払額も多くなります。

繰り上げ返済

住宅ローンは返済期間中に元金を一部先に返済することが可能で、「返済額軽減型」と「返済期間短縮型」という方法があります。

・返済額軽減型

トータルの返済期間は変わりませんが、返済により借入額が減った分、毎月の返済額が少なくなります。 そのため返済後すぐに家計改善の効果が出ますが、利息軽減効果は、返済期間短縮型の方が高く、利息と元金の総支払額も返済期間短縮型の方が少なくなります。

・返済期間短縮型

毎月の返済額に変化はありませんが、繰り上げ返済した分、返済期間が当初より短くなります。 返済期間が短くなるため、利息軽減効果が返済額軽減型より高くなり、元利金の総支払額も少なくなります。

借入額3,000万円、利率1.5%、返済期間35年、元利均等返済、5年後に300万円を一部繰り上げ返済した場合を例にすると、繰り上げ返済しなかった場合と比べ返済期間短縮型では約154万円、返済額軽減型では約72万円利息の額が減額されます。

いずれの方法であっても繰り上げ返済することで利息の支払い総額は減りますので、大きな資産運用利回りが期待できないタイミングでは、資金に余裕がある場合、繰り上げ返済によるメリットは大きなものがあります。

ただし、繰り上げ返済には次のような注意が必要です。

繰り上げ返済をする際の注意点

・年末の住宅ローンの残高に応じて、一定額が所得税(所得税で控除しきれない場合は住民税)から控除される制度(住宅ローン控除)があります。

新築住宅(マンション・戸建て)だけでなく、中古住宅(マンション・戸建て)、リフォームも対象になり、年末のローン残高の1%を所得税(一部、翌年の住民税)から、契約時期と入居時期に応じて最大13年間控除されます。

ただしこの制度は、返済期間が10年以上という条件があります。借入当初10年以上の条件で借りても、繰り上げ返済により期間が短縮され、返済当初から完済までの期間が10年未満になると、控除が受けられなくなるので注意が必要です。

・返済額軽減型を取扱していない金融機関がありますので事前の確認が必要です。

・繰り上げ返済に手数料がかかる金融機関があります。手数料は金融機関により異なります(WEBで手続きする場合、無料が多い)が、繰り上げ返済によるローン残高の減少により住宅ローン控除の額も減りますので、繰り上げ返済による利息の減少額と繰り上げ返済手数料、住宅ローン控除の減少額とのバランスを考慮する必要があります。

なお、借入時に保証会社を利用している場合は、繰り上げ返済により保証料が返済額に応じて一部変換されますが、保証会社事務手数料がかかります。

ローン残高、返済残期間、繰り上げ返済額、ローン利率により、繰り上げ返済で総支払額が増えることもありますので注意が必要です。

・繰り上げ返済の最低額は、金融機関やローンの返済方法、繰り上げ返済の方法(返済額軽減型か返済期間短縮型)により異なります。1万円以上や1円以上、毎月の返済額単位、半年の返済額単位などがあります。

なお、フラット35は金融機関の窓口で手続きする場合は100万円以上、WEB(住・My Note)の場合は10万円以上から繰り上げ返済できます。

ただし、いずれの場合もボーナス返済を利用していて借入期間を短縮する繰り上げ返済をする場合は、「毎月払い6回分+ボーナス払い1回分」で返済する必要があります。

また残債務の全額を繰り上げ返済する場合は1か月前までに、ローン申込先の金融機関に申し出る必要があります。

・繰り上げ返済により借入期間を短くすることは可能ですが、一度短くした借入期間を延ばすのはよほどの事情が無い限り不可能です。

・繰り上げ返済する資金の出どころも重要です。親や配偶者の資金で繰り上げ返済すると、贈与税の対象となる場合があります。

◇つなぎ融資、分割融資

つなぎ融資

金融機関は建物が完成し、引き渡しを受けるタイミングでないと住宅ローンを実行してくれません。マンションなどでも契約段階ではなく、引き渡しのタイミングで融資を受けます。

しかし、土地を購入し、その後注文住宅を建てる場合などは、土地の購入代金や建物の着工金、中間金は完成前に必要で、完成直後にも資金が必要となります。

そこで、これら資金を住宅ローンが実行されるまでの間、一時的に資金を借りるのがつなぎ融資です。

自己資金が不足している時の注文住宅の購入に役立つほか、建て替えのつなぎ資金にも利用でき、また団体信用生命保険にも加入できますので、万一の時にも安心です。

つなぎ融資の返済は、住宅ローンが実行された時点です。一般的に、つなぎ融資を借り入れている期間の返済は不要です。

利息や事務手数料、印紙代といった諸費用は、つなぎ融資返済時にまとめて支払う金融機関もあれば、つなぎ融資の期間に金利だけ支払う金融機関もあります。

つなぎ融資の注意点

つなぎ融資は、住宅ローンが実行されるまでに必要な資金を用意できない人にとっては非常に便利なサービスですが、注意点もあります。

・つなぎ融資は担保提供が不要なことから金利や融資事務手数料が高くなっています。工期が延びれば必要以上に金利が増えます。

・住宅ローン控除は入居が適用条件ですので、入居前のつなぎ融資は住宅ローン控除の適用対象外になります。

・つなぎ融資は、すべての金融機関で扱っているわけではありません。住宅ローンを組む金融機関以外でも組むことができますが、事前の確認が必要です。

・つなぎ融資には限度額が定められています。また回数や1回あたりの融資額に制限がある場合もあります。
必要額や回数がつなぎ融資で賄えるか事前の確認が必要です。

分割融資

分割融資とは、住宅ローンを複数回に分けて受けるものです。

住宅ローンは建物完成後引き渡し時の実行になりますが、分割融資を利用することで土地の購入時や着手金の支払い時など建物完成前に融資が受けられます。

融資の実行は複数回でも、住宅ローンの契約は1回です。

つなぎ融資は担保提供が不要ですが、分割融資は住宅ローンですので、担保が必要で購入物件に抵当権が設定されます。

土地の購入代金の融資を受ける場合は、土地に抵当権を設定する必要があり、建物代金の融資を受ける場合は、追加で建物にも抵当権を設定する流れになります。

なお、分割融資の審査には、土地に関する資料の他、計画している建物の資料も必要なため、融資の申し込み時には建築プランや費用を固めておく必要があります。

分割融資の特徴・注意点

つなぎ融資は、つなぎ融資と同様、建物が完成する前に必要な資金を用意できない人にとっては非常に便利なサービスです。特徴、注意点を知って利用すれば、メリットを享受できます。

・融資回数
回数やタイミングは金融機関により異なります。自己資金や業者への支払いのタイミングに合った金融機関を選択する必要があります。

・金利
つなぎ融資は住宅ローンと別物で担保の提供もないため金利は高くなりますが、分割融資は住宅ローンの一部で、担保提供もしますので多くの金融機関では住宅ローンと同じ金利が適用されます。
ただし、土地の購入時、建物の引き渡し時と金利が異なる金融機関もあるようです。

・返済のタイミング
返済開始時は、金融機関により異なります。
土地代金の融資を受けた月からという金融機関もあれば、建物の融資を受けるまでは金利のみの支払いで建物の融資を受けた後に返済開始する金融機関など様々です。

・住宅ローン控除
分割融資は住宅ローンですので、住宅ローン控除の条件を満たせば住宅ローン控除が受けられます。

・担保提供・抵当権
分割融資は住宅ローンの一部ですので、土地、建物を担保提供し、抵当権が設定されます。
そのため抵当権設定の手間と費用がかかります。

また、住宅ローンの抵当権設定にかかる登録免許税は、軽減措置の条件をクリアする住宅であれば融資金額の0.1%ですが、建物完成前の土地に分割融資を受ける際の抵当権設定登録免許税は融資金額の0.4%になります。

土地が3,000万円し、全額融資を受けるとなると、抵当権の登録免許税だけで9万円の違いになります。

・住宅関連支出の重複 賃貸住宅に住んでいて、土地代金の融資返済が購入時から始まる場合、家賃と支払いが重複します。

・借入金融機関 分割融資は、すべての金融機関で扱っているわけではありませんので、事前の確認が必要です。

◇借り換え

住宅ローンの借り換えとは、現在の住宅ローンを別の住宅ローンで一括返済することです。 ボーナス併用払いを月々の返済だけにするなど、現在の住宅ローンの返済方法を変更する「組み換え」とは異なります。

借り換えのメリット

①新たに借りる住宅ローンの金利が、現在の住宅ローンよりも低ければ、借り換えすることで毎月の金利負担を減らすことができる

②返済期間を短くしたり、延ばしたりすることも可能 返済期間を短くすることで、金利が下がらなくても金利負担を減らすことができます。
返済期間を延ばすこともでき、金利負担は増えるかもしれませんが、月々の返済額を減らすことができる

③団体信用生命保険の見直し 借り換えは新たな住宅ローンの契約になりますので、団体信用生命保険の契約内容を切り替え、補償内容を充実させたり、軽いものへ変更し、保険料を減額させることができる

④借り換えをリフォームと同じタイミングにすることで、低い金利でリフォームができる

などがあります。

借り換えのデメリット・注意点

①諸費用 借り換えには事務手数料や保証料、他行から借りる場合の抵当権の設定変更手数料などの諸経費が掛かり、また、ローン残高と残年数によってはあまりメリットが無い場合もあります。

一般的には、

・借り換えにより金利が年1%以上下がる
・住宅ローン残高が1,000万円以上ある
・住宅ローンの残りの返済期間が10年以上ある

という場合は、借り換えにメリットがあるといわれます。

②再審査
借り換え時でも審査があります。
当初の住宅ローン契約時は問題がなかったとしても、契約後、

・住宅ローンやクレジットカードの返済が滞ったことがある
・所得が減った、不安定になった
・病気になった
・多重債務になった、自己破産した
・独立した、小規模の会社へ転職した

などの事実があれば、審査が厳しくなり、借り換えできないことがあります。

③住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)
借り換え後の住宅ローンの期間が10年未満になると住宅ローン控除が適用できなくなります。

④用途変更
転勤などにより当初居住用としていた物件を賃貸にした場合など、用途変更した場合は住宅ローンの借り換えはできません。

保証会社の承認やローンの全額または一部の返済が必要になる場合があります。 住宅ローン控除は居住が条件になりますので、住宅ローン控除も適用できなくなります。